第19幕:旅籠vip温泉


 ふたりを乗せた車は、林道を下ってvip峡の東側を縦断している道へと降りる。
 摺り鉢状になったvip峡は住居と住居の間隔が広く、その住居自体も平屋建て、それも茅葺きが多い。
 見渡す限りの地平線、というわけには行かないが、東京で勤めているふたりにとって開放的だった。

 車窓から見える人々の数は少ない。
 しかし、太陽の下に出て働く彼らの表情は、とても豊かだった。

 水田の溝に繁茂した下草を刈る者。
 畑に出て夏野菜を収穫する者。
 谷川に降りて野菜を洗う者。

 皆が皆、のんびりと日々の業を為している。
 誰かに命令されて、機械の歯車や発条のように淡々と生きているような様子は無い。
 土で手を汚し、露出した肌で日の光を感じながら、ただ日々の糧の為に働く。


 当たり前だけど、『人間』の日常。
 でも、どこか忘れ去られている日常。
 太陽に、雨に、大地に感謝する日常。
 そんな当たり前の、生命としての日常。

 傍から見ただけでは牧歌的に見えるが、そこには苦労もあるだろう。

 しかし、彼らは彼らの意志でそんな生活を営んでいる。
 
 逆もまた然り。
 ドクオたちは東京で暮らし、会社に勤めて日々の賃金を得ている。
 それも、彼らの意志である。

 どちらが正しいか、答えなんか無い。

 日本は十分に文明化し、都市部の人々はサービス産業で埋め尽くされたユビキタス社会を享受している。

 だが、都市部にいない人々はそんな社会を享受していない。

 それを見て、都市部の人は格差を歓迎するだろうか?

 それを見て、地方の人は格差を嘆くだろうか?

 答えを俟つにしろ、それでも生活は成り立っているというのが事実だ。

 都市部の人が、どれだけ都心に広大な農地や灌漑設備を必要とするだろう?

 片田舎に住む人が、どれくらいセブンイレブンや、街中の無線LAN設備を必要とするだろう?

 結局のところ、地域に応じた生活がある。

 ただ、それが見えにくいだけだ。


 見えにくいから、どうせなら見えない振りをする。知らない振りをする。

 人が集まるところに金が集まり、コンクリートの林が生い茂る。それは必然だ。

 だが、それに甘んじて地方に目を向けないのは、あまりにも臆病ではないか。 

 コンビニ弁当ひとつを取っても、必ず何人もの生産者が関わっている。

 この人参はどこで取れた? 米は? 葱は?

 それらの答えは、地方にある。

 都市からでは見えにくい、地方に。 

 ふたりは、この旅を通して日本の中規模の都市から、中京の大都市を見てきた。

 そして、見えにくかったものが、ブラウン管や液晶を通さずに目の前にある。

 日本最後の秘境らしい閑村、vip今日という形で。


从 ゚∀从「どうですか? vip峡の様子は」

('A`)「ん。なんだか、昭和初期の日本を見ているようですね……」

 遠い目をしながら、ドクオは気の抜けたように応える。

( ^ω^)「ここは、そのまま何かの映画のロケ地に使えるんじゃないですかお?」

从 ゚∀从「ハハッ、こんな片田舎に映画を誘致するのが大変ですよ」

 話しているうちに、車はvip峡の東西を分かつ川に架かる橋に差し掛かっていた。車は右にウィンカを出す。

从 ゚∀从「さて、この橋を越えたら旅館ですよ〜!」


 そう言って、車は橋を渡る。
 橋は、全長が100メートルぐらいだろうか。欄干から川底を見ることができた。
 川底と言うよりかは、谷底と言った方が正しいだろうか。遠目で見たより橋脚は結構長いようで、谷底は暗い。
谷底には冷たそうな水がサラサラと流れている。川は所々で深くなっているようで、紺青の深淵が幾つも見られた。
 谷底に降りる道も無いようではなかったが、道幅からして車では降りれそうではない。自分の脚で降りる必要があるようだ。

从 ゚∀从「どうですか? vip川は」

( ^ω^)「清流という言葉がピッタリそうですお」

('A`)「ここから見るだけでも、なかなか綺麗な川だということが分かりますよ」

从 ゚∀从「ええ。私が幼い頃はよくこの川で泳いだり、川魚釣りを楽しんだものです」

( ^ω^)「この川はどこに通じてるのですかお?」

从;゚∀从「――いやぁ、そこまでは考えてませんでした。木曽・長良・揖斐のどれかぐらいだと考えて下さい。
 詳しい地域を想定していませんし、そこまで構想を練っても本編には関係ありませんので……」


 橋を渡り終えると、もう旅館だった。視界に趣のある旅館が飛び込んできた。

从 ゚∀从「はい。これが、本日の宿の『旅籠vip峡温泉』でございます。長い旅路、お疲れ様でした」

 一行を乗せた車は、旅館の前のロータリーをぐるりと回って、本館と思われる一回り大きな建物の前で停車する。
車が停まって、後部座席のふたりが旅館の敷地に降り立つころ、運転席の高岡は、お世辞にも持ち運びしやすいとは
言えない、ふたりの旅行鞄が入ったトランクを開けていた。 

 ふたりは車から降りると、ざっと辺りを見回す。
 本館に入る玄関のドアは自動ではない。
 長い間風雨に耐えてきたのか、木造の旅館はどこと無く全体が黒ずんで、くすんで見える。
 旅館そのものは、2階建ての本館と平屋の別館らしい建物とで成っているようで、なかなかの年月や趣が感じられた。
 玄関脇には、流石は『旅籠vip峡温泉』だけあって、温泉の源泉が石造りの瓶に潺々と流れている。ただ、メインの
温泉へと通じるような道は、ふたりが立っている位置からは見えなかった。
 そして、玄関脇から少し離れた所に、申し訳無さそうにバス停が立っていた。 


( ^ω^)「本来なら、あのバス停で降りているところだったんだおね……」

 半ば独り言を言うような風に、ブーンはドクオに語りかける。
 正直、冷房が効いているとは言え、ブーンはバスでの移動に閉口していたので、今さらながら
高岡の送迎に本当に感謝していた。日差しは相変わらず強く、バス停の方を見遣るブーンの眉間には
うっすらと汗が滲んでいた。

('A`)「まあ、バスばかりだと何時間掛かったか分かったもんじゃないからな……」

 そのとき、背後で物音がした。
 ふたりが音がした方を振り向くと、そこには和服姿の女性が息を切らして立っていた。

ξ;゚听)ξ「はぁはぁ。遠い所からわざわざようこそ、『旅籠vip峡温泉へ』。当旅館の女将でございます、ツンデレで
 ございます」

从 ゚∀从「出迎えをするのが遅いぞ。遠方から客が来ると分かってたじゃないか」


 息を切らしながら言葉を継ぐ横で、車のトランクからふたりの鞄を降ろしていた高岡が冷ややかに諌めた。

( ^ω^)「いやいや、お出迎えどうもありがとうございますお」

('A`)「一泊の間ですが、宜しくおねがいします」

从 ゚∀从「では、私はこの車を駐車場に停めてきます。おふたりの鞄は、ここに置いときますね。
 あとの案内はツンデレが致しますので、私はこれで……」

ξ;゚听)ξ「はい。これからお部屋に案内いたします。重い荷物を早く降ろしたいでしょう?」

( ^ω^)「早く畳の上でに寝転がりたいですお」

('A`)「僕も同じく」

 ふたりは、高岡が降ろした鞄を手に取って、館内に入っていくツンデレに従った。

ξ;゚听)ξ「ではどうぞ、こちらの方へ……」

从 ゚∀从「ごゆっくりどうぞ〜」 

 その言葉を投げかけて、高岡は運転席に乗り込んだ。


 外から見ただけでも相当の歳月を経ていると思われた『旅籠vip峡温泉』は、館内にも年月が感じられた。
 歩くたびに軋む板木や、旅館の玄関部分に設けられた囲炉裏など。
 古くから日本にあるはずなのに、ふたりの目には新鮮だった。

ξ゚听)ξ「どうぞ、こちらがお部屋になります」

 旅館の廊下と三和土とを隔てる障子戸を開けた後、上がり框に立ったツンデレ(以下、ツン)は、
部屋へと通じる大きな障子をするすると引いた。
 途端、薄暗かった玄関に、部屋から淡い光が差し込んで来るとともに、イグサの香りが漂ってきた。

ξ゚听)ξ「さあ、どうぞお先にお入りになってください」

 暫しの間三和土で躊躇していたふたりを、上がり框から促す。

('A`)「では、失礼します」

( ^ω^)「お邪魔しますお〜」


 部屋に入ったふたりは、まず部屋の造りに息を飲んだ。
 老舗の旅館らしく、純和風の部屋。高松に宿泊したのも旅館だったが、市内にあった安宿とは格が違う。

 まず、部屋が広かった。
 とても、ふたりだけで宿泊するとは思えない、20畳ほどもあろうかという部屋。その部屋は、部屋の中心にある大きな襖で
分かたれるような造りになっており、細かい細工が施された欄間もあった。
 ふたつの間のうちの手前の方、つまりふたりが立っている玄関側の部屋には、玄関から入って右手側に床の間があった。
そこには掛け軸や、季節の花を生けた白磁の花瓶もあった。

('A`)「これは……、宿泊するのがすこし勿体無いようだ」

 静かに旅行鞄を畳に降ろしながら、すこし昂奮気味にドクオは語った。

( ^ω^)「――なんだか、ふつうのリーマンがこんなvip待遇を受けて良いのかお?」

 ブーンも荷物を降ろしながら、ふたりの後に部屋に入ってきたツンに喋りかける。


ξ゚听)ξ「普段からvip峡に宿泊してくれるお客さんが少ないもので、ほぼ毎日暇をしているんですが、こうしてたまの
 お客さんが来て下さるときは、出来る限り良い部屋を用意して歓待するのが当旅館の方針なんですよ」

( ^ω^)「なるほど……」

ξ゚听)ξ「引き戸があるでしょう? そこを開けると、vip峡の全景が一望できますよ」

 確かに、部屋の奥の方と左手側には、上部が磨硝子になっている引き戸があった。

('A`)「へえ、それは見てみたいですね……」

 南側からみたvip峡の全景というのが気になって、ドクオは左手の方にある引き戸のほうへと足を進める。
そして、ガラガラと引いた。

 少し西に傾いた太陽に照らされるvip峡が、目の前にあった。
 ふたりが宿泊する部屋は2階なので、それほど高い建物がないvip峡は簡単に一望できた。
 vip峡を東西に分けているのは、ここまで来るのに通ってきたvip川。その上流の方に目を遣ると、
北の方からは見えなかった、遠くに霞んだ山々が見えた。


ξ゚听)ξ「この部屋は少々日当たりが悪いんですけど、宜しいですか? 景色は悪くなりますが、同じ造りで
 南向きの部屋がありますので、そちらの方が宜しければ……」

( ^ω^)「いや、この部屋で十分ですお。ご好意有り難うございますお」

 そう言って、ブーンは縁側に立っているドクオのほうに歩いていった。

 旅館の中に居たら方向感覚が狂うが、景色を見て大体の部屋の方位を把握することが出来た。
 方角にすると、部屋の北側と東側に縁側があることになる。玄関から部屋に通じる入り口は、西側に位置している。
そして、部屋じたいは東西に細長い。
 実際、こんな説明するより、紙に書いてスキャンしてjpgでうpした方が速いと思うけど、仕方ないんだ、うん。

 縁側には、小さなテーブルと籐製の椅子が2脚。
 椅子に座って、景色を眺めながら将棋でも指せそうだ。

54 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/21(月) 01:37:12.39 ID:3qGCZCneO
支援

55 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/21(月) 01:38:03.56 ID:3qGCZCneO
支援

56 名前: ◆spzKjTJd5o [] 投稿日:2007/05/21(月) 01:38:37.45 ID:1kyisCNu0
('A`)「ツンさん、サッシを開けてもいいですか?」

ξ゚听)ξ「ええ、ご自由にどうぞ」

 部屋の中央に置かれた黒塗りの机の前に座り、ふたり分のお茶を淹れながらツンは答える。

('A`)「では」

 鍵を開け、アルミサッシを引くと、部屋と外界との隔絶が解かれる。
 北の山々の方からの涼しい風が、川のせせらぎの音や、森で鳴いているクマゼミの声を乗せて吹いてきた。 
 部屋を満たしていたイグサの薫りも良かったが、すがすがしい初夏の空気も良いものだ。

( ^ω^)「ふい〜、癒されるお〜」

 背伸びをしながら、ブーンは深呼吸して新鮮な空気を吸い込む。長距離・長時間の移動で疲れていた彼には、
風光明媚な景色を眺めながら吸う外の空気は格別だった。


ξ゚听)ξ「お茶が入りましたのでどうぞ……」

 景色を眺めるふたりの横で、正座したツンが縁側の机にお茶を2杯、しずしずと載せた。

( ^ω^)「お、ありがとうございますお」

ξ゚听)ξ「何かあったら、床の間の電話で受付の方へお電話ください。 内線の電話番号は、この机の上に
 置いておきますので……」

 そう言って、ツンは一枚の紙を机の上に置く。

ξ゚听)ξ「では、私はこの辺で失礼させて戴きます。ごゆっくりどうぞ」

 床に手をつき、深々と頭を下げる。



( ^ω^)「あ、ちょっとツンさん」

ξ゚听)ξ「? 何でしょうか」

( ^ω^)「夕飯の時間は何時になりますかかお?」

ξ゚听)ξ「そうですね……。今が3時半ぐらいですから、今から作り始めたら6時くらいには用意出来ますね。
 仕込みや捌きで、少々お時間を頂くことになります」

('A`)「ブーン、おまえ、7時まで待てるのか?」

( ^ω^)「正直不安だけど、そこは何とかするお」

 ツンが淹れたお茶を啜りながら、ブーンは呟く。

ξ゚听)ξ「では、夕飯が出来るまではvip峡を散歩なさるとかは如何ですか? それほど広いところでもないですから
 迷うこともないでしょうし、ただ散歩するだけでも結構のんびり出来るものですよ」

( ^ω^)「では、そうしますお」


ξ゚听)ξ「では、外出の際は戸締りをしっかりお願いします。vip峡のパンフレットをお渡し致しますので、
 部屋の鍵は受付にお返しください」

 ツンはゆっくりと立ち上がって部屋の入り口の方へと向かう。
 
ξ゚听)ξ「では、ごゆっくりどうぞ」

 襖が閉められる。 
 部屋には、ふたりが残された。

('A`)「さて、俺もお茶を飲むか……」

( ^ω^)「なかなか美味しい玄米茶だお」

 ふたりはお茶を啜りながら、今一度vip峡のほうへと目を向ける。

('A`)「――さて、これから何をするか?」

( ^ω^)「安価かお?」


('A`;)「それはねーよw」

( ^ω^)「まあ、まずは川の方に降りてみるかお? 川辺はなかなか涼しそうだお」

('A`)「そうだな……。ここ何年、川の水に触っていないかな……」

( ^ω^)「それから、当てもなくぶらぶらと散歩してみるかお?」

('A`)「ツンさんの言ったとおり、そうするか。特に何をする、ってワケでもないんだし」

( ^ω^)「じゃあ、決まりだお」 

 ブーンは、空になった湯飲みを縁側の机に置くと、部屋の入り口へと向かっていった。

('A`)「おいおい。もう行くのか? 随分とせわしないじゃないか」

 右手に湯飲みを持ったまま半身を翻して、ドクオはブーンに呼びかける。



( ^ω^)「まさか。トイレだお」

('A`)「ああ、ゆっくり行って来な」

 そう言って、ドクオはふたたび縁側からvip峡の景色を堪能する。  

('A`)「――――――」

 暫らく、無言でお茶を啜りながらvip峡の隅々を見渡していた。

('A`)「――――――しっかし、なあ」

 ぽつりと、ひとり語ちる。

('A`)「――――――何でこうも、クマゼミの声だけが……いやに騒がしいのかね」



第19幕:旅籠vip温泉                    了



80 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/05/21(月) 02:05:04.65 ID:3qGCZCneO
19話に出てきた読みの難しい漢字

三和土 タタキ
囲炉裏 いろり
框 かまち
欄間 らんま

kwsk知りたい人はググりましょう。


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